脳のシワはデタラメや適当に出来ているのではなく、全てが規則的に並んでいるのです。シワの表面の灰色がかった所には、脳神経細胞がおおよそ150億個ぎっしりと並んでいます。その数は約1千億個あると言われています。

こうした脳神経細胞は胎児中に完全に出来上がって、誕生した時には自前の脳を持参してこの世に出て来るのです。生まれた後には増えません。それを生涯使ってゆくのです。しかも脳神経細胞はいったん壊れると、壊れたままで二度と再生することはありません。脳の病気や外傷で脳神経細胞が死滅した時も同じです。現在の所は人間の力で、脳神経細胞の数を増やしたり、再生したりすることは全く不可能です。

しかも、この脳神経細胞は人が30歳ぐらいになると、1日あたり10万個ぐらいの割合でどんどん減り続けます。一ロに脳神経細胞と言っても、超高度の電子顕微鏡で調べると、色々と異なる形をした幾つかの種類に分かれていることが確認されました。しかし個々の脳神経細胞は基本的に、細胞体、軸索、樹状突起という三つの主要部から出来ています。例えて言うと、それは星型にあちこちへ手(突起)を延ばして、ことごとくお互いに連絡しあっているのです。150億個なら150億個全てが、相互に連格しあっていて、一つとして無視されているものはありません。この神経細胞から出た突起が、ほかの色々の細胞と接触していて、それをシナプスというのですが、このシナプスが人間の脳に何と500兆個もあるということです。

これはいわば真空管みたいなもので、化学的な信号、電気的な僧号を、全身のあらゆる細胞へ伝えたり受けたりしています。例えば人の耳に音が聞こえると、ある部分のシナプスの電気回路が通りやすくなり、「何々のことだな」と気が付くのです。そういう神経回路が子供の時から私たちの脳に納められていて、さまざまな記憶がストックされ、体験や知識も増して、千人千様の性格が形成されて行きます。

生まれたばかりの時、脳神経細胞から出ているこの繊維は一本一本、電線でいうと裸線みたいな状態ですが、3歳ぐらいになるとそのほとんどにビニール膜のようなものが形成されて、これを髄鞘と言います。鞘とは、刀のさやのことです。したがって赤ちゃんの時、幼時期に脳の病気をしたり、あるいは栄養失調に陥ったりすると、脳の発達にたいへんに響くことになります。

150億個の脳細胞は全て神経繊維で連絡しあっていて、その神経繊維の長さを合計すると、一人分ざっと5万kmにもなると言われています。これらの神経繊維も脳細胞も、一人の人間の脳という形を成すには、まとめて固めるセメントのようなものが必要です。その役目を果たしているのが、膠の細胞で、総数2兆個にのぼり、この膨大な数の膠細胞によって、脳細胞や神経繊維および脳血管はひとまとまりに固められて、私たちの脳が形づくられているのです。なお脳の各部分は役割分担が細かく決まっていて常に整然とそれぞれの役目を果たしています。