トロフィック説が、神経結合のパターンが神経の標的に由来するシグナルによって部分的に調節されていることを提唱していることを考えて見るべきであろう。

この考えは今世紀初頭になされた多くの実験結果に基づくもので、これらの実験によって、脊椎動物の胚期のニューロンの生存はニューロンの標的との競合関係に依存するという概念が確立した。動物の発生と成長が、神経結合の再構成を要求することが分かったこと、そしてこの再構成が神経系の諸領域で認められることが、このトロフィック作用の概念をニューロンの生存から神経結合に適用するように動機付けたのである。

神経結合を適応させる細胞及び分子機構は、胚期のトロフィック物質の競合によってニューロンの数が決まる機構と同じものか、その変法と考えられる。細胞レベルの機構とは、神経結合の再構成が軸索や樹状突起の分枝とそれらの終末を調節することによって起こることである。分子レベルの機構とは、神経結合のトロフィック調節が標的細胞の生産する特定の調節物質とその獲得に基づくことである。ちなみに、競合とは、ニューロンとその突起が限られた供給量の卜ロフィック物質から、適当な取り分を探す過程と定義される。

軸索と標的細胞が直接接していない場合では、競合は標的細胞の周りに抵散している限られた量のトロフィック物質の獲得に基づくと考えられる。シナプス前部と後部が直接接しているシナプスの場合は、卜ロフィック物質を獲得する部位はシナプスの活性部位に限られると考えられる。

シナプスで直接結合している細胞間では、特定の標的細胞に分布するいろいろな軸索の終末間でトロフィック物質を獲得する競合が起こる。この競合機構は、シナプス前部及び後部の活動、もっと詳しく言えばトロフィック物質の獲得がシナプス前部及び後部の同期的な活動が依存していると考えられる。この推測が正しいと証明されるかどうか分からないが、電気活動がトロフィックな相互作用に影響を与えていることは疑う余地がない。シナプス後部の活動レベルが低下すると、その標的細胞のトロフィック刺激が上昇し、その逆もまた起こり得る。

このような電気活動の効果によって、シナプス結合する相手のトロフィック物質に対する反応性が相互作用的に決まり、調節ループが形成される。すなわち、標的への神経分布は標的細胞のトロフィックな属性に影響を与え、標的細胞のトロフィックな神経分布に影響を与えるのである。結局トロフィックな影響は神経連鎖全体に及び、末梢の標的に端を発したこの影響は全神経回路の結合に影響を与えることになる。

トロフィックな活動とその相互調節には幾つかの目的がある。この調節機構の本質的な目的は、発生初期に決まった数のニューロンが適当量で神経分布し、成熟期には体の変化に応じて適応する方法を提供することである。その上、これらの目的にかなった神経系の可変性はほかのいろいろな神結現象に適用できると考えられる。

すなわち、

  1. トロフィックな相互作用は損傷に反応する神経系の能力の一部である。
  2. トロフィックな相互作用は神経結合を変えることによって体験を神経系に組み込むことができる。
  3. トロフィックな相互作用は自然選択による表現型の変化に、神経系が適応して種形成を促進することができる

という3点である。