免疫系は、『自己』に対する反応性をアプリオリには除外しているわけではありません。『自己』と反応するT細胞や自己抗体を作るB細胞も、少数ながら存在することが知られています。その『自己』反応性が発動するのをCD8+サプレッサーT細胞が、現場で抑制していると考えられています。老化によって起こるCD8+T細胞の減少は、そういう調整能力を持つはずのサプレッサーT細胞の機能が低下していることを示すものです。したがって、港化による免疫系の失調は、おしなべての反応性の低下などという生易しいものではなくて、裏腹に起こってきた無規則な反応性の異常上昇を含む、きわめて深刻なものなのです。

CD8+T細胞の減少のもとで起こるCD4+ヘルパーT細胞の反応のほうも、変則な挙動を示します。その一つは、インターロイキン生産能力のアンバランスです。T細胞を増殖させる能力を持つIL2の生産が一般には低下するのに対して、B細胞の抗体合成を高めるIL4やIL5の生産は異常に高くなります。『自己』と反応するようなB細胞が増殖分化してしまうのを助ける危険な条件です。Th1細胞のほうが少なくなって、Th2細胞のほうがアンバランスに多くなります。しかも、こうしたインターロイキンを作るヘルパーT細胞は、『自己』の組織適合抗原と常に反応して興奮状態にあるわけです。

まだそのほかにも、細胞表面のCD3分子の減少、B細胞の免疫グロブリンレセプター分子の減少、自己反応性T細胞の出現頻度の増加など、様々な現象が認められています。

こうした様々な異常の大元に、胸腺の加歳による退縮という事実が在ることは想像にかたい。免疫超システムの自己組織化に大きな役割を持つ胸腺が、その働きの一部を停止してしまった。日々消費され、また運命的に寿命を終わって行くT細胞を、有効に入れ替えるためのメンバーの供給がなくなりました。

片寄ったレパートリーの自己増殖と、幹細胞から胸腺の教育を受けることなく供給されたT細胞を利用して、この超システムを維持していかなければなりません。それぞれの細胞は、インターロイキンを介してお互いに増殖制御をしていますが、そのインターロイキンにもアンバランスが生じ、そのため偏向はますます大きくなるが、それを抑制する部分は欠落しつつあります。超システムの原則は一方的に失われ、『自己』の同一性が崩壊します。