成長点培養

植物は種から芽を出すと地上に伸びてどんどん高くなり、やがて人間の背よりも大きくなっていく。一方、地下にも伸びて根をどんどん張ってしっかり根付いて成長していく。どうして上と下に伸びていくのであろうか。そのわけは植物の茎の頂点と根の先端に新しい細胞がどんどんできてくることによる。この生まれたての細胞の増殖部分を成長点といい、ウイルスが全く感染していない。「ウイルスフリー」と呼ばれる細胞からなっている。つまり成長点細胞はみずみずしい赤ちゃん細胞だ。これを管理して成長させるとウイルスのいない植物、つまり、ウイルスフリー植物となる。

野外で生えているほとんどの植物を見ると、葉っぱがしわしわになっていたり、色がブチになっていたりして、ウイルス感染しているのがわかる。茎や根の先端で新しい細胞が分裂増殖している成長点ではウイルスがまだいない。そこからウイルスフリーの細胞を取って無菌状態で培養して分化させた後、野外に植え付けて、ウイルスフリーのイチゴやブドウなど成長の早く美味しい果物が作られている。他にもウイルスフリーの成長点培養による、味が良く成長の早いアスパラガス、ショウガ、長芋、サツマイモ、サトイモ、ラッキョウ、タマネギ、ピーマンなどが作られている。つまり、組織培養技術によって植物を大量に生産させるバイオ技術の1つが、植物組織培養における成長点培養なのだ。組織培養とは生物の組織や細胞を取り出して、無菌下で特殊な培養液で純粋に培養して成長させることをいい、動物細胞では生理活性物質の検査や有用物質の生産などに利用されている。

植物ではホルモンを入れ細胞分化させ培養細胞を1つずつに分け一度に大量植物体を作る。 このように成長点細胞をたくさん増やす技術によって植物が得られることになった。

実際には、植物の成長点をカッターナイフやメスなどで切り取り、混入するかもしれない細菌やウイルスを殺すために滅菌処理してから小薄切片とし、植物の成長ホルモンを含む寒天で固めた栄養培養液上で組織切片を培養し細胞の塊(カルス)を作る。このカルス状のものを液体培地に入れゆるく振盪(しんとう)すると一部が離れ分散し細胞数が増加する。これら細胞を寒天培地上に置き培養すると、個々の細胞から出芽してくる。

その芽を育てて根を出すための特殊培地に換え、根が出てから土に植えかえると植物体まで成長する。このようにして、年間1株の植物から10株程度しか株分けできなかったものが、短期間に数十万本もの大量の株を増やすことができるようになり、ラン、カーネーション、ユリ、カスミ草、ガーベラ、フリージアなどの植物クローンを作ることができる。

カーネーションは五月の第二日曜日の母の日にもてはやされるが、これらはすでに成長点培養によって増やされた純粋なウイルスフリーの細胞から育てられたコピー植物である。また、結婚式に花束や新郎新婦がよく胸に差しているコチョウランも、成長点培養によって大量に増やすことができるようになったからこそ、比較的手に入りやすい値段になった。