さて、何故同じ種類の動物で大きいものと小さいのができるのだろう。人間でも同じなのだが、一定の大きさになると何故成長が止まってしまうのだろうか。それは成長ホルモンの分泌の量と時期に関わっているのだ。ホルモンとは極微量で動物の生理調節物質で、脳や色々な臓器から分泌されて身体の各部分に運ばれ、身体の色々な調節をしている非常に大事な生理活性物質だ。

ホルモンは色々な内分泌腺で必要に応じて作られ、毛細血管に分泌され、血液で運ばれる。微量で特定の標的器官に作用を及ぼすホルモンは、身体の内外の環境変化に対応して調節されている。例えば、脊椎動物では脳下垂体前葉から分泌され、特に骨や筋肉のタンパク質合成を促進する発育の早さに関係する成長ホルモンや、逆にその成長ホルモンの産生を抑制するホルモンであるソマトスタチン、神経系などの発達に関係する甲状腺ホルモンのチロキシン、血糖濃度の上昇時には間脳が反応して、迷走神経を通じて膵臓のランゲルハンス島β細胞から分泌され、血液中のブドウ糖の細胞内への取り込みやグリコーゲン合成の促進に働くインスリン、脳下垂体後葉から分泌され、腎臓での水再吸収に係わる、抗利尿ホルモンのパゾプレッシン、腎臓から主として分泌され、貧血状態で赤血球の血中濃度を上昇させる、赤血球産生調節液性因子のエリスロポエチンなどがよく注目されるが、他にもまだまだ色々なものが知られている。

成長ホルモン分泌が止まってしまった大人に、成長ホルモンを与えたら背の高さは再び伸びて来るのであろうか。答えはイエスで、もしオリンピックのパスケット選手やバレー選手など、背の高いことが有利となる選手がこれを本気で使ったら、ドーピングどころではなくなってしまう。しかし、人間の成長ホルモンはそう簡単には抽出するわけにはゆかない。そこで最初は、ウシの脳から抽出して治療に用いていたのだが、微量すぎて一部にしか投与できない。また、ウシの成長ホルモンはヒ卜の成長ホルモンとはアミノ酸が少し違うために、使っているうちに異物として認識されてしまうので困っていた。そこでこの遺伝子組み換え技術によって、大腸菌にヒト成長ホルモン遺伝子を挿入して作らせようと考えられたのだ。しかし、成長ホルモンが過剰に分泌されると、巨人症とか末端肥大症などの病気になってしまうので、この場合には成長ホルモン産生を抑制するソマトスタチンが必要になる。

このヒト成長ホルモン放出抑制ホルモンであるソマトスタチンを作る遺伝子は、1977年に合成され、大腸菌に入れられた。また、78年には同じ方法でヒトインスリンを作る遺伝子の合成に成功し、大腸菌にヒトインスリンを作らせることができた。これ以来、化学的には非常に難しいたくさんの生理活性物質の産生が遺伝子組み換えで行われるようになった。現在は遺伝子工学で作られた191のアミノ酸から成るヒト成長ペプチド・ホルモンが、男性は155cmで女性は150cmで投与が打ち切られる小人症の治療薬として使用されるばかりでなく、傷や骨折などの創傷治癒促進、脂肪分解による肥満治療、老人の骨粗しょう症への応用も考えられている。この薬は乱用防止のために主治医が申請用紙を成長科学協会へ郵送することになっている。