診断試験法は実際に使われる前に、FDA (連邦食品医薬品局)の認可を受けることが必要であり、そのために試験方法の感度と特異性に関する情報が要求される。感度とは病気に侵された人が試験で陽性になる確率であり、特異性とは病気ではない人の試験結果が陽性にならない確率である。診断試験には二つの大きな理由(病気の遺伝的不均一性と、連鎖した遺伝マーカーがほとんどの遺伝的検査の基礎となっていること)から、偽陽性や偽陰性の結果が出ることも避けられない。そこでFDAは、許容できる感度と特異性の基準を決める必要があるが、現在のところ、自分のところで開発したDNA試験法を用いて遺伝的検査のサービスを行う検査室は、FDAの認可を必要としない。このため、当面の遺伝的検査に関する専門家の目的は、優良実験室規範の標準を規定することである。DNA検査はまだ複雑な手順を要するので、訓練を積んだ職員が必要であるが、これらの作業手順を自動化すれば、試驗の再現性と品質管理が改善されるだろう。その上、一連の臨床試験に遺伝的検査を加える検査室の数が増えるだろう。しかし現時点では遺伝的検査センターがむやみに増えて広がることは好ましくない。実際問題として、遺伝的検査を行う検 査室が広がると、遺伝的検査の利用と、これらの検査の全てを取り扱うのに必要な専門家の不均衡が生じる。遺伝学は医学校においてさえ無視されている分野なのである。

それでも、健康管理システムは遺伝的検査を広範囲に導入することができるように、大きく再編成する必要がある。医師、看護婦、社会福祉指導員、実験室技術者などに対し、一般大衆と同様に、科学的な知識、ことに分子遺伝学の考え方をよく理解してもらうことが緊急に要請されているのである。しかし、ともかく当初は、遺伝的检査を行う資格を、質の良い職員を揃え、試験の好ましくない結果を聞いて傷ついた人を心理的に支え得る機能を持った、特別の委託センターに限定すべきであると、多くの科学者は主張している。もし新しい遺伝学の影響を管理する、容認できるような規範を作り出すことに関して健全な意志決定を望むなら、情報の幅広い普及が最も重要である。全ての人は、ドイツで起こったような感情的で抑制の効かない反発を避けるために、起こり得るあらゆる副次的な問題について明確に理解すべきである。ドイツでは活動家のグル—プが、遺伝子工学の研究と応、用を阻止しようと、政府に迫っているのである。

ドイツの国民が外の国の人達と同様、遺伝的に操作した生物を環境に放出することを認めたがらないのは当然である。しかし、すでに私達は遺伝子導入植物、つまり科学者たちが特殊な性質を与えるために外来遺伝子を導入した植物〜除草剤耐性のトマト、大豆、綿花、甜菜、ウイルスや昆虫に抵抗性の煙草など〜が激増しているのを目にしている。だが遺伝子導入植物が外来遺伝子を外の宿主に伝達し、生態系に思いがけない影響を与えるおそれは依然として残っている。