生態学という言葉に内包されている意味を考えれば、広い生態系における人類の位置を描き出すような、一般的な関係を示す外の名前が見つかるはずである。それによって全ての人が、この地球という惑星の生き残りをかけた戦いの成果を部分的に感ずるだろう。私達はエンジンを止められないくらい遠くに来てしまったし昔に戻れないが、地球の危機を防ぐためのバランスに到達する必要がある。絶滅に瀕している動物の保護、アマゾン熱帯雨林の救済、海洋魚類の枯渇対策などは、膨大な情報キャンペーンが始められた環境対策の中の少数例に過ぎない。

1980年代には万難を排して個人の成功を追求することが是認されたが、1990年代には個人的レベルでも社会的レベルでも道徳性、倫理性に対する関心が高まっている。技術的進歩が正しいか否かが以前とは比較にならないほど厳しい問題となっている。遺伝理論は新しい遺伝学の社会への適用を取り扱い、調整するために提案されたが、それは技術進歩に対する社会的懸念に立脚している。

分子遺伝学の人間のゲノム地図作製の努力によって、遺伝的疾患を起こす異常を持った遺伝子を確定することができるようになる。同時に、私達は感染症に対する遺伝的なかかりやすさなどの漠然とした概念や、性格的特性、人間性の特性・IQ・心臓病・高血圧・がん・精神知能疾患のような多因子性の実体を明らかにし、定量化しようとしている。いつの日か、体のあらゆる生化学的機能を性格づけることが可能になるであろうと期待する。

ゲノムプロジェクトを中心とするDNA研究の線上にある、直接的‘実際的な応用は遺伝的検査である。遺伝的検査によって、心臓血管疾患のような複雑な病気にかかりやすい体質を正確に診断できるし、DNAフィンガープリントの形で、誤りなく個人を特定することが可能である。遺伝的検査を行うには微量のDNAが必要なだけで、それは体のどこからでも採取できる。受精後はいつでもDNAが得られるので、これらの試験は出生前にも行うことができる。出生前診断は胎児の齟織を採取する最近の方法によって、妊娠6週で行うことが可能になってきた。

遺伝的検査の開発は、ひどく衰弱し、死に至るような疾患を治療し、治癒させ、根絶させるという、医学研究者の最終的な長期目標へ向けての第一歩である。真の予防法の実現に対する夢は遺伝的検査の明るい面であるが、しかし、一方ではこの技術を個人の意に反して使い得るという喑い面もある。科学界や医学界の一般的な感覚からだと、人間の病気を治療し、治癒させることを目的とした如何なる研究も止めたり、遅らせたりしてはならないが、他方、科学は全て真実であるという考えは、新しいタイプの優生学へ誤って踏み込む第一歩となるだろう。