ホルモンは、生体を維持するために重要な働きをしている微量の物質ですが、このホルモンの全身のシステムのことを、「内分泌系」と言います。様々な刺激やストレスは体の各部位で捕らえられ、最終的には脳の視床下部に集まってきます。この視床下部と密接な連絡のある下垂体という部位に内分泌系の中枢があるため、やはりストレスなど情動の動きとホルモンとは密接な関係があるのです。

ストレスの種類や強さによって違いが在りますが、例えば、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、成長ホルモン、カテコールアミンの三種類のホルモンは、ストレスがある時には常に分秘量が増えるようになっています。一般には、ストレスを受けると内分泌系は普通の分泌状態からストレス時の分泌妆態に切り換えられ、エネルギーを動員させたり、抵抗力を増大させるなどの非常時に必要なホルモンを分泌するようになります。

仕事などで睡眠不足や過労が続いた時には風邪を引きやすくなりますが、それ以外にも慢性の心理的ストレスが続いた時にも風邪を引きやすくなってしまいます。これは心理的ストレスによって免疫機能が低下して、感染に対する抵抗力が弱くなってしまったからです。このように心理的ストレスによって、白血球の中の好中球が細菌を処理する機能やリンパ球の活性化が低下することが多くの研究から分かって来ています。多くの研究で調べられたのは、睡眠障害、配偶者との死別、資格試験のプレッシャー、うつ状態による心理的ストレス、社会的サポートの無い老人のそれなどでしたが、中でもイギリスのバルトラップが報告した「配偶者の死後に残された片方の配偶者のリンパ球の反応性が、2週から8週後に低下する」という研究は有名です。

またアレルギー患者である気管支ゼンソク、慢性じんましんなどや自己免疫疲患の慢性関節リウマチ、ベーチェット病などの病気についても、発症や経過に情動や心理的ス卜レスが影響しているという研’究結果が報告されています。

最近、免疫系の白血球が産生するインターロイキン1という物質が、神経系の視床下部を刺激してCRFというホルモンを分泌させていることが明らかになるなど、免疫系と神経系と内分泌系はそれぞれ独立しているのではなく、この三つのシステムの間に関係があることが分かってきました。現在、医学界ではこの三つのシステムの関連を研究する精神神経免疫(内分泌)学というテーマが、「心の時代」の研究分野として注目されるようになっています。

 

ストレスという言葉は、今では日常語のように一般的になっていますが、1930年代にカナダのセリエ教授が初めて医学の領域に導入したものです。ストレスは元々機械工学で用いられた物理学用語で、厳密に言えば、外から加えられた刺激を意味するストレッサーと、その刺激によって生じた歪みの状態を意味するストレスに分けられます。例えば仕事のノルマというストレッサーが加わって胃潰瘍というストレス状態ですが、一般には区別されず、ストレッサーに対してもストレスという言葉が使われているようです。

また心身医学の祖ともいわれるシカゴの精神科医フランツ・アレキサンダーは、「慢性疾患の多くは、外的、機械的、あるいは化学的な原因、または微生物の侵入によって起こるのでなく、日常生活の中からもたらされる絶え間ないストレスによって起こる」という概念を1939年に発表しました。この考えが、後に「心身医学」という学問に発展しています。

1950年には、心身医学者は次の7つの疾患を「心身症」と指定しました。消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、高血圧、甲状腺機能亢進症、慢性関節リウマチ、神経性皮膚炎、気管支ゼンソクの7つです。その後、心身症という概念については様々な議論を呼び、現在日本では日本心身医学会によって規定がなされています。

心身症とは、簡単に言えば、精神病(分裂病や躁鬱病など)のときに現れる体の症状や病気を除いた、「一般人に見られる心理的なストレスによって生じた体の症状や病気」のことを指します。精神病の患者にも様々な体の症状が起こる場合がありますが、これは心身症とは呼ばないというわけです。心身症として憂慮すべきものには非常に多くの疾患が含まれる上、心身医学的なケアをするべき病気はガンや各種の難病、リハビリ、老年期医療などがあり、心身医学的なアプローチが医療の基盤といえます。

笑いと病気の関係について、多くのことをアメリカの著作者カリフォルニア大学教授のノーマン・カズンズがいます。彼は膠原病の一種である強直性背椎炎という難病にかかり、痛みのために全く動けないほどになってしまいました。医師からは、治る確率は500分の1と言われてしまったのです。

しかし彼は気分のいいこと、特にお腹を抱えて笑った後には、痛みがしばらくの間消えていることに気づき、病室に喜劇のコミックや映画を持ち込み、「笑い療法」なる不思議な治療を自分で始めたのです。

そして、この現象に興味を持った主治医が、笑う前後で炎症値がどのように変化するのかを調べたところ、赤血球沈降速度という炎症の度合いを測る検査でも実際に改善していることが分かったのです。カズンズは、自由に笑える環境を求めて、病院を退院してホテルに移り、思う存分に笑い療法を行い、見事に500分の1の仲間入りをしたのです。

カズンズは、「笑いは肯定的な感情の象徴である」と説明しています。つまり希望や愛、陽気さ、生きようとする意志と言ったあらゆる肯定的な感情の象徵なのです。

アメリ力ではこのカズンズの体験を取り入れ、既に幾つかの病院で本格前に笑いと創造活動を治療に導入しています。テキサス州ヒューストンのセント・ジョーゼフス病院では、がん病棟を改修して大きな部屋にソファやオーディオ機器を入れ、美術コーナーや本、ビデオ、カセットテープなどのライブラリーを作ったそうです。またロスアンゼルス•セント・ジョンズ病院は、病室のテレビに特別チャンネルが設けられ、コメディ番組が何時でも見られるそうです。笑いだけでなく、音楽や美術や文学も取れ入れる病院もあり、患者の趣妹的活動が検討され、廊下に笑いの配給車が置かれ自由に活動しているそうです。