骨折部から出される細胞増殖作用のある局所ホルモンの呼びかけに応じるもう一つの細胞は、骨膜細胞であります。これは骨の周囲を薄く一層に取り囲んでいて、成長期には骨を太くするのに活躍するが、成長した後の骨では、何事もなければ生涯にわたって再び出番が回ってくることはありません。この骨膜細胞が、出血という呼びかけにより骨折部で増え、血塊に集まるのです。
骨折部から出た血液が血塊を作るのは、血液中に含まれる凝固成分、血小板が壊れて血液を凝固させるからです。血小板は、血を固めるだけではなく、細胞を分裂させて増やす作用のある局所ホルモンを出します。この局所ホルモンの作用により、すり傷などに血液の固まりがこびりついていると、何日もたたないうちに皮膚の細胞が増え新しい皮膚が再生して傷が治ります。
同様に骨折部の血塊に集まった骨膜細胞が、血小板から出る局所ホルモン=細胞増殖因子の影響を受けて、どんどん細胞を増やす様子は、孫悟空が髪の毛を吹いてふっと吹けば、何百といった孫悟空が誕生するのを連想させるほどです。平常時であれば、骨膜細胞は骨の周囲を生涯にわたり、静かに取り巻いているだけです。「骨膜細胞」というのは、骨を作る骨芽細胞が休んでいる状態の仮の姿に対して名付けられたもので、ひとたび活躍する場を与えられれば、もとの骨芽細胞として勢いよく骨を作り始めます。すなわち骨折部では、増殖した骨芽細胞の固まりが血塊の中に入り込み、両方の骨折端を線維状の網でくるんでしまうのです。この状態は線維で仮の骨が作られていることから、線維性仮骨形成と言います。太い骨でも骨折2週間もたてば、この状態でひとまず繋がります。
炎症部位から放出される局所ホルモンの一つは、周囲の細い血管にも働きかけ、新血管を作って骨芽細胞の画まりや線維性仮骨に栄養や酸素が行きわたるようにします。そして、十分に栄養や酸素が行きわたった部位では、骨芽細胞が線雑に沿ってカルシウムを沈着させて、不完全ながらも骨を作り始めます。一方、栄養や酸素の届かない骨折中决部では、細胞が豊富な素材を必要とする骨を作らずに、ひとまず大きな軟骨(軟骨性仮骨)を作り出します。そして作られた軟骨の固まりが今度は削られて一挙に弱い骨に置きかわるといった具合に、骨折部全体は骨形成一色となります。