本態性高血圧と二次性高血圧の両方の可能性を考えた診察。高血圧は、実に様々なタイプがあるため、1回の診察では原因の見当がつかないこともよくあります。しかし、高血圧の背後には、脳や腎臓などの重大な病気が隠れている場合があるので、なるべく早く原因を突き止める必要があります。

そのための第一歩として、初診時に、本態性高血圧と二次性高血圧の両方の可能性を視野に入れた診察をすることが大事です。具体的には、二次性高血圧の除外診断などを行います。本態性高血圧は原因が複数のことが多く、診断が難しいわけですが、二次性高血圧は原因の病気が比較的明確で、高血圧と一緒に、原因の病気の特徴的な症状がかなりの割合で現れます。そうした症状の有無を問診などで確かめ、消去法で二次性高血圧の可能性を除外し、本態性高血圧の可能性を絞り込んで行く方法が、二次性高血圧の除外診断です。

高血圧とともに現れる、二次性高血圧の原因となる病気の症状には、次のような例があります。二次性高血圧の中で最も多い、腎実質性高血圧の場合は、病状が進むと腎臓の機能低下によるむくみが現れます。

クッシング症候群では、多数のニキビが出来ることがあります。また脳の障害が原因の場合には、頭痛や半身のマヒ、意識不明などの症状が起こる場合があります。

そして必要なのは、病歴の確認です。二次性高血圧でも、高血圧だけ、あるいは高血圧のほかには頭が重い程度の症状だけということもあります。そのため、原因病の明確な症状がなくても、問診で腎臓病などの原因病の病歴を確かめ、病歴があれば臨床検査で確定診断する必要があります。次いで必要なのは、高血圧によって誘発される合併症の確認であります。高血圧になると言うまでもなく、全身の血管に高い圧力がかかった状態になります。そのため、高血圧を放置して置くと、脳血管障害、眼底出血、心臓障害、腎硬化症、下肢の閉塞性動脈硬化症、虚血性腸炎など、様々な合併症が誘発される可能性が出てきます。高血圧で誘発される脳血管障害は、脳梗塞が多く、脳出血が起こることもあります。

眼底出血は、眼球の底の血管が破れて起こるもので、視野が赤みを帯びて見えたり、視野の一部が見えにくくなるなどの自覚症状が現れます。

高血圧による心臓障害には、心筋の障害と心臓を養う血管の障害があります。心筋の障害は心肥大から始まり、心拡大、心不全へと進む可能性があります。心臓を養う血管の障害は狭心症や心筋梗塞で、これは虚血性心探患と呼ばれています。

腎硬化症は、腎血管の障害によるもので、腎不全に進行する可能性があります。下肢の閉塞性動脈硬化症は、文字通り下肢の動脈の障害によるもので、ときどき歩きにくくなる症状(間欠性跛行)から始まって、静止していても足が痛む症状が現れ、やがて足の豆などから壊疽が起こる重症へと進む可能性があります。

虚血性腸炎は、腸を養う血管の障害で起き、食後に腹痛を感じる症状から始まって、最終的には腸が腐る状態にまで進むこともあります。

これらの合併症はどれも重大な病気で、早期発見、早期治療が重要です。そのため問診などで兆候、症状が認められたら、疑いのある病気に防じた検査で、確定診断をする必要があります。検査は、脳障害はCT検査やMRI検査など、眼底出血は眼底写真撮影、腎臓系は尿検査、血液検査、超音波診断など、心臓は心電図、エックス線撮影、超音波診断などを行います。

次いで必要なのは、1日の血圧変動(日内変動)の確認と評価。血圧は、正常な人でも1日のうちに一定のパターンで高低の変化をしています。正常なパターンは、夜、就寝してから4時間ほどの間、血圧が最も低く、朝方、目覚める2、3時間前から徐々に上がり始め、目覚めて起きると明らかに高くなります。そして、仕事をして疲れが出る夕方にピークになり、帰宅してリラックスする夕食後のあたりから、再び下がるという形をとっています。ところが、ストレスや不規則な生活、老化、あるいは、各種の原因病などが限度を超えると、日内変動のリズムが狂い、血圧が全体的に上がって高血圧になります。

高血圧の診療では、その日内変動の特性を注意深く見ることが重要で、特に1日のうちで、血圧の上がり幅が最も大きいのはいつかを見極めることが大事です。高血圧に誘強される脳梗塞や心筋梗塞などは、血圧の上がり幅が最も大きい時間帯に発症することが多いからです。つまり日内変動のパターンがつかめれば、上がり幅の大きい時間帯に効果が切れないように注意して血圧降下剤を使うなど、危険な合併症の的確な予防が可能になるわけです。日内変動を正確に調べるためには、変動パターンをつかむまでの一定期間、毎日朝の起床時、朝食後、帰宅時、就寝前の4回程度は、欠かさずに血圧を測定して記録をとる必要があります。ですから、医師の認識とともに、自分も積極的に診療に参加するという患者自身の意識も不可欠です。最近24時間以上効果のが持続する血圧降下剤なども開発され、以前よりも便利になっています。