細胞分裂の特定の段階になると、DNAは収縮し厚くなって化学色素に容易に染まるようになり、染色体と呼ばれるものを形成する。これは高倍率の顕微鏡ではっきり見ることができる。個々の染色体は異なった長さの2本の腕からできていて(遺伝学者は短い腕を「p」と呼び、長い腕を「q」と呼ぶ)、動原体と呼ばれる構造でつながっている。染色体は対で存在し、したがって遺伝物質は染色体の同等な2つのセットからなっている。例えば60億塩基対からなる人間の遺伝物質は全体で46本の染色体、つまり22対の常染色体(性に関係しない染色体)と1対の性染色体といった形で見ることができるのである。女性は1対のX染色体を持っており、46XXと書く。男性では性染色体の対が一つの又と一つのYからできており、染色体型は46XYである。したがって、遺伝的には男性と女性の違いはXの一つがYに置き換えられたことにあるに過ぎない。

遺伝物質、つまりDNAは生命活動を可能にしている色々な反応の組織者である。最終的にDNAはタンパク質の生産を指令する。タンパク質は非常に大きい分子で、巨大分子と呼ばれている。DNAと同じように、タンパク質もある種の素材が連続した配列でできている。この場合タンパク質の素材となるのはアミノ酸という分子である。アミノ酸は20種類あり、核酸には4種類のヌクレオチドしかないのと対照的である。私達の体にはおそらく5万から10万種類のタンパク質があると推定されているが、まだほんの一部分が発見されたにすぎない。インスリン(ホルモン)、皮膚のケラチン、腱のコラーゲン、赤血球の中にだけ見つかるヘモグロビン、そして脂質の輸送と代謝に関与しているリポタンパク質粒子の一部であるタンパク質、つまりアポリボタンパク質などがその例である。

タンパク質は生物に特有な生化学的反応(代謝)に積極的に関与している。細胞で合成されたタンパク質はその細胞内に止まるか、または細胞外に分秘されて体の色々な場所に運ばれ、そこで機能を発揮する。あるタンパク質は体の色々な構造を作り上げるために働きその他のタンパク質は多種多様な生化学反応を司る分子、つまり酵素として働いている。

それだけではない。多くのホルモンはタンパク質分子であり、また、他の物質の受容体や運搬役として働くタンパク質もある。受容体タンパク質とそのリガンドと呼ばれる分子が結合すると強力な信号が生まれ、その信号が引き金となって、体の中で一連の反応が起きる。細胞中のDNAはそれ自体多くの異なったタイプのタンパク質に結合している。私達が観察する染色体はDNAとタンパク質の混合物で出来上がっており、それで、デオキシリボ核タンパク質繊維と呼ばれる。