「風邪は万病の元」。誰もが一度は経験した病気は、やはり風邪でしょう。医者に診てもらうほとんどの風邪は、治りにくい症状の激しいものですが、大抵の人は市販の薬で済ませずしまうことが多いようです。この風邪と呼ばれる病気には、普通の風邪とインフルエンザの二つのタイプがあります。

普通の風邪は、医学用語で「感冒」と言われ、人々の日常生活の環境に住む、複数の種類のウイルスが原因になって発病する風邪です。インフルエンザは、インフルエンザウイルスという特殊なウイルスが病原体で、伝染力が強いために「流行性感冒」とも呼ばれています。

風邪は、様々なウイルスが原因で起こる病気ですが、ウイルスに対する抵抗力がある健康な人はあまりかかりません。しかし普段健康な人でも不摂生を重ねたりすると抵抗力が弱まり、体に侵入したウイルスが増殖して風邪をひき、鼻水、鼻詰まりのどの痛み、唆や痰、発熱などの症状が出ます。ただし風邪は、通常はもともと健康な人がひいても、数日もすれば治ってしまうことがほとんどです。それが何日たっても治らず、症状がだんだん悪化してきた場合に、病院に行こうかということになるわけです。

風邪の診療で、医者が最初にしなくてならないことは、それまでの症状の経過を患者から詳しく聞くことです。この問診には、二つの意味があります。一つは、医者が病気の状態の要点を把握して、診断・治療の手掛かりを得ること。もう一つは、患者が自分の病気をどう解釈しているか、風邪と思っているのなら、何故そう判断したのかを、医者が理解することです。医者が、病気についての患者の心中を理解することは、医者への信頼感を生み、患者の不安が和らぐ効果があります。そして診療上のコミュニケーションが円滑になり、精度の高い効果的な医療の実現にもつながります。この最初の問診の必要性、重要性は、風邪に限らず、全ての病気の診療に共通しています。

症状が現れる範囲は、大きく分けて、4つのエリアに分かれます。のどから上の呼吸器系(鼻やのど=上気道)、のどより下の呼吸器系(気管支や肺=下気道)、消化器系(胃や腸)、それに全身です。症状が現れる所は、必ずしも1エリアだけとは限らず、複数のエリアに及ぶこともあります。病原体のウイルスが、体内のどこで旺盛に繁殖しているかによって、症状が現れる所が異なるわけですが、医者は問診を含めた診察で症状が出ているエリアを確認することが必要です。症状が現れているエリアが特定されたら、次はそこの患部を詳細に診察し、症状の程度や種類を調べることが必要です。風邪が軽症か重症か、二次感染が発症していないか、あるいは症状が風邪に似たほかの病気の可能性はないか、などを診察するわけです。

二次感染症は、風邪のウイルスの影響で抵抗力が弱まった部分に、健康な時には感染しにくい、風邪のウイルス以外の病原性細菌などが感染して起こる病気です。風邪の二次感染症は、気管支炎、肺炎、肺化膿症などが代表的です。

また気管支炎や肺炎などは、風邪のウイルス自体が病原になっている場合もあります。その場合には、二次感染症とは言いません。それから症状が風邪に似た病気には、蓄膿症、扁桃炎、リンパ腺炎、結核、胆嚢炎、腎盂腎炎、さらに白血病、悪性リンパ腫など、 数多くの種類があります。そうした様々なケースを的確に識別するためには、症状が現れているエリア別に、次のような診察が必要です。