脳は、無数のニューロン(神経細胞)がシナプスを介して繋がり、複雑なネットワーク(神経回路網)を形成しているが、その機能(特に認識機)に関して、現在大きく分けて二つの考え方がある。
一つは、白紙に絵を描くように、余白が在る限りは、外部の情報によっていくらでも新しい絵が描けるという考え(白紙説)であり、もう一つは、感知できる色々な絵はあらかじめ遺伝的に決定されていて、テレビ受像機のチャンネルを切り替えると違った画像が映るように、外部からの刺激によって或る絵が選ばれて出てくるという考え方(チャンネル説)である。
白紙説は、後天的認識に重きを置いた考え方であり、チャンネル説は、先天的認識つまり遺伝的決定に重点を置いた考え方である。前者は認識の客観普遍性に、後者は主観性に繋がっているとも言える。
以前は白紙説が有力だったが、近頃ではチャンネル説に傾く学者も多くなっている。それは、生命現象は全て「遺伝的決定」と「選択」という線で考えなくてはならないことを示す現象が発見されたことなどに強く影響されている。
例えば種々の抗原の侵入に対して、生体内でそれぞれの抗原対応した抗体が造られてくるという免疫現象は、実は前もってそれぞれの抗体を造る細胞集団(クローン)が多種類存在していて、ある種の抗原が侵入すると、それに対応する抗体を造るクローンが選択的に増えてくると考えられる。それがクローン選択説である。
もう一つは、生物が環境に適応して、例えばある酵素を造るようになることがある(適応酵素の産生)が、これはそれぞれの酵素を造る遺伝情報はすでに生物の中に在り、その発現が環境因子によって誘発されるのだということが知られている。

 

脳の働きは高次の生命現象であるが、そこには生命現象であるための宿命として、自ら一定の枠がはまっている。その枠とは、遺伝現象として遺伝的に枠決めされていること、さらに物質・エネルギー現象として制約されていることなどである。