生命科学はDNAからの出発によって、人の肉体的生命とともに精神的生命の実体を解明するために、幾つかの目標を考えることに興味を与えてくれている。

人間だけに在る、肉体的生命と精神的生命の合体によって造り出されているものが、何なのか?それによって人間以外の動物が持ちえない、宗教や哲学、そして諸々の文化思想が造り出されて来たことの実態の中に、その精神性(心)を覗くことが出来るのではないか?それがこの一遍への思いとして私を駆り立てる。

そして、精神はすぐれた人間にのみ在るのだという間違い思い上がりを捨てて、脳の在る動物にはどれにも精神活動は在るという場に立って考えて行くべきである。

肉体的生命と精神的生命の話合いの場は、間違いなく「脳」であって、脳の働きを明らかにすることが、精神的生命解明への具体的課題となる。この立場から精神の問題も自然科学的な説明が出来るのではないかと思われる。

脳は、遺伝子DNAに刻み込まれた遺伝情報で決められた一つの物質機械としての組織器官であるが、そこには遺伝情報のみならず、非遺伝的な外部情報が様々な形で入って来る。ある場合には、その外部情報が脳の神経のネットワーク形成にも影響していると考えられる。つまり、遺伝的情報と非遺伝的情報が交錯している場所が脳であり、これらの情報によって引き起こされる脳の働きが、精神現象と考えられるわけである。それでは、どのようなメ力ニズムで精神現象が発現するのかは、現在では未だ脳機能の解明が不十分のために不明点が多い。例えば、「記憶」がどこに蓄えられているのか?記憶情報の最終的な貯蔵庫は、大脳皮質連合野の何処かに在る、と言う推定知識があるだけで、その実体は明らかにされていない。