原因と臨床的に表れた結果の間にある段階、すなわち異常タンパク質(生化学的欠陥)、赤血球機能が異常になる過程(生理的欠陥)、そして赤血球や傷害を受けた組織の両方に表れた変化、例えば毛細血管や皮膚の形態(病理・生理的変化)までがはっきりしたのである。このため、鎌状赤血球貧血は他の単遺伝子性疾患の研究のモデルシステムとなる。

ある種の遺伝的多形性では変異タンパク質の生産という形ではなく、別の原因結果を持つ。例えば、遺伝子の働きを調節するDNA領域に変化が起きると、遺伝子の発現が抑えられたり、mRNAが不安定になったりして、機能を果たすのに十分な量のタンパク質が生産されなくなることがある。その影響は非常にわずかで、見過ごされたままになるか、または許容範囲と診断される場合もある。しかし、このようなタンパク質生産量のアンバランスがすぐには影響を及ぼすことはないにしても、何年、何十年の間、同じことが積み重なると臨床症状が現れることもあり得る。

例えば、このような現象によってまだわかっていないアテローム性硬化症発症機構が説明できるのではなかろうか。体内を循環するコレステロールは、輸送と除去機構の些細な異常のために、血中からは十分に除去されないことがある。まだ知られていない非常に多種類の物質がこの過程に関与しており、これらのうちの一つ、または複数の生産が正常ではなくなっていることは十分考えられる。この結果、動脈の壁にゆっくりとコレステロールが沈着し、そのうち動脈が狭くなり過ぎて血液の塊で詰まってしまい、血液の供給が十分にはできなくなる。これが冠状動脈(心臓の筋肉に血液を供給する動脈)に起こると心臓発作になる。

DNA配列の変動は、そのほとんどが生体の運命に影響しないようである。変動が遺伝子の中で起こっても、タンパク質を構成するアミノ酸は変化しない(このような変異はサイレント変異と呼ばれている)場合と、遺伝子の外や調節遺伝子の配列に変化が起こり、それでも生体に何の影響もないように見える場合がある。しかし、このような変異にはまだ分かっていない影響があるかもしれない。もし全然影響がないならば、DNA分子のかなりの部分が明確な機能を持たない配列からできていることになろう。現時点でそうかどうかは分かっていないし、決定論的な追及を行っている科学者にとってDNAの大きな部分が不用であるとはどうしても思えないのである。

全ての多形性を伴って、遣伝子(遺伝形質)は生物の目に見える性質(表現形質)に表現される。ある表現形質は一定の遺伝形質に対応している。私達人間はだいたい似通っているが、遺伝的多形性があるために、身長、体重、目・肌・毛の色などの身体的特徴、また性格的特徴、行動の特徴などにかなりの違いがある。端的に言えば遺伝的多形性は多様性を生み、そのために人生を面白くしているのである。同じ人種での個人間の多形性や遺伝的変動の推定値は、異なった人種の個人の間の推定値と同等かわずかに低いだけであることを強調しておきたい。したがって、遺伝的な違いによってある一つの民族が他の民族より優れていると考えることは根拠がなく、それはたいへん馬鹿げたことである。