よく仙人はカスミを食って高地に住んで居ると言う話が事実であることが、ニューギニアの高地のパプア族の生活から実証されている。何故この話を出したかというのは、人間にとって不可欠な生活維持条件としての、炭水化物・アミノ酸・ミネラル・ビタミン等と共に、酸素や窒素も必要であり、これについてパプア族は普段はサツマイモを食べており、肉や魚、卵など動物性食事をほとんど摂らないが、それでも彼らは丈夫な体格をしておりよく働く。

さつまいもの窒素量は少なく、一日に摂取する窒素量は大人で約2グラムという。ところがパプア族が、便、尿などの一日に排泄する窒素量は、食べた量の約2倍あるという。どこからこの窒素が摂られたのかについて、色々な学説が在るが、ここでは「体の仕組みという点」からのものについて考えて見る。

「食物や水に溶けた空気中の窒素ガスが、消化管の中に住み着いた窒素固定菌という細菌によって人間が利用し身に付けることができる形の窒素化合物(タンパク質)に変えられているのではないかという」。だが窒素ガスは、水に溶けるが、その形では人間は利用することができない。

パプア族の糞便を調べたところ、クレプシェラ菌とエンテロバクター菌が検出された。これらの菌が食物の中に溶けた窒素ガスからタンパク質を合成していたという訳である。

話を元に戻して、食物は胃・十二指腸から腸の中へと進み、S字結腸にいったん貯留される。小腸では、栄養分が吸収され、大腸では、水とカリウム、ナトリウムなどの電解質が主に吸収される。「食物」はこの時には名が変わり「腸内容物」から、さらに「便」となる。食物の体内滞留時間は、繊維が多いほど短く(4 2時間)、肉食は繊維が少なくて

滞留時間は(83時間)約倍で、混合食では44時間であり、肉食では3日間以上体内に在ることになる。高繊維食では3 4時間約1日半だが、便量は逆となる傾向がある。便量 は、高織維食が多く、健康にも良い。日本食は高繊維食と言える。

先に腸内ガスは酸欠状態であり、臭い物質も嫌気的条件で生成すると述べたが、今度はガス(おなら)について言うと、小腸ガスは空気と比べ、炭酸ガスが増加し、酸素がほとんど無くなる。腸内ガスは、もとは食物に溶け込んだ空気から来る。その空気が消化管の中で、窒素ガス・炭酸ガス・水素・メタン・酸素等の組成に変わり、細菌が嫌気的条件で起こす反応の特徴である水素やメタンが多くなり、これを集めて火をつければ、燃えることがある。悪臭成分は量が少ないが硫化水素・アンモニア・インドール・スカトール等。

口、胃および腸と、消化管には多種の微生物が住んでいる。このうち胃は普通、酸性であるから、細菌の活動はほとんどない。小腸に入ってから活躍する。

小腸内容物は、1分間に1~2cmの速度で移動する。一方細菌は最適の条件で20分間に1回分裂しその数が2倍になる。細菌が増えるより内容物の動いて行くほうが速い。細菌が増える前に、腸内容物はどんどん動いて行く。だから、腸粘膜表面は洗われて、細菌は、ほとんど付いていないのではないかと、思われるかもしれない。ところが、細菌は結構、強固に腸の表面に付着している。グラム陽性菌(グラム染色で紫色に染まる細菌)および酵母菌は、ムチン(粘着性の強い多糖類)を介して付着している。ムチンはちょうど、海草で作るノリのように粘りがあり、簡単には、菌体を離さない。大腸菌の付着は、大腸菌の菌体の回りに細かい毛(多糖類よりなるグリコカリックス)が沢山生えて居る。腸粘膜の表面にも同様に、細かい毛が沢山在って、この両方の毛が「レクチン」というタンパク質を媒介して結合している。このように、腸内細菌というのは、腸内を単に流れて行くだけではなく、ところどころで腸粘膜に、割合強く結合している。小腸粘膜の表面積は、全部合わせると、約畳20畳分、約33㎡あると言われている。顕微鏡で観察すると、腸粘膜はケルクリングのヒダがあり、その上は絨毛という細かいシワが一面に在る。この絨毛を更に拡大して見ると、これが更にシワになって居る。これは微絨毛と呼ばれている。

せっかく食べた食事の三分の一が、腸内細菌に変わってしまうと言えば、やるせない気持ちになるが、しかし、この三分の一は、ただの投資ではない。腸内細菌は、それに匹敵する恩返しをしてくれている。先ず色々なビタミンを合成して、それを人に与えてくれる。食事にビタミンB、葉酸(ビタミンM)、ピオチン(ビ夕ミンH)などが不足していても安心である。次にカスミを食う話ではないが、人体に不足するもの、例えばタンパク質を窒素ガスから合成してくれる。病原菌が腸に入って来ても、細菌同士が戦い、病原菌をやっつけてくれる。また人体の免疫機構に役立って各種病気への抵抗性を与えてくれる。