飲んだパウイは、体の仕組みとして、消化管をどのように移動して行き、何処でどうなって行くのだろうか?

始めにパウイの代わりに食物について考えてみよう。いわば消化管内の食物(パウイ)の動態と言うわけです。

口から食道を通って胃袋に入って来た食物は、胃の運動と胃液(ペプシンと言う酵素と塩酸を含む強酸性消化液)によって、1ミリ以下の(数の子1粒の大きさ)までにこなされて粥状になると、胃のポンプ作用(胃が収縮して押し出す作用)によって、幽門から十ニ指腸へ移って行く。これより大きいものは、さらに胃袋内に留まるが、その後の強力な胃の運動によって、十二指腸の方へ押し出される。

胃は、空腹時はぺったりひっついているが、食後は膨らんで、成人で約1.1~1.2リットルの大きさが在る。

小腸は日本人で、長さ約6m、直径2.5cmで、大腸は長さ約2m、直径約5~7.5cmである。

食物は、胃袋の中では自由に移動する。ところが、腸は管になっているから、常に一方通行である(多少の上下動はある)。ところが十二指腸では、激しく胃へ逆流することがあることが最近の研究で解った。こうして食物は胃でこなれ腸粘膜から吸収されやすい形となる。さて微生物の状態は、とくに細菌は、消化管内で大事な働きをしている。

食事の種類にもよるが、胃の中には食べ物と一緒に1g当たり1,000万個の細菌が入って来る。時間とともに、胃のpHは下がってくるので、低いpH (酸性)で影響を受けやすい細菌類は、一部死滅し、一部は不活性化されて、縮こまってしまう。だから普通なら胃では、細菌はほとんど活動していないと見てよい。

ところで胃の中は何故酸性なのか?もし中性か、アルカリ性であれば、胃は1日で腐ってしまうだろう。無酸症といって、正常な量の胃酸が出ない人がいるが、それでも必要最低量の胃酸は出ているはずである。細菌は酸性に弱い。だから、もし胃が中性から弱アルカリ性なら、しかも食事のこなれた栄養分があるので、細菌は爆発的に増殖する。

理想状態では、20分間で1回分裂して、1個が2個になる。理輪的には一昼夜で1個の細菌がなんと472×10の19乗個という途方もない数に増えるのだ。この調子ならどんなものでも立ち所に腐ってしまうだろう。

食事やパウイは、胃という大きな洞窟であちこち押され、もみくちゃにされて、その上消化液で酸性にされて、溶かされ、更にこなされる。一定の大きさにこなされると、やがて腸というトンネルに入る。

腸は上から順に四種類あり、十二指腸、小腸、大腸及び直腸だ。この中を食べ物やパウイが移動して行く原理は、ちょうどミミズの動きと同じである。腸があのような螺動運動をすると、中の食物は、次第にS字結腸の方へ移動する。十二指腸では、胆汁や膵液が分泌される。胆汁はアルカリ性だ。だから、胃で酸性になった食べ物はここで中和される。

胆汁はそのほか、胆汁酸塩、コレステロール及び酵素などを含む。また、膵液には色々な消化酵素が含まれている。食物やパウイが、胃から十二指腸へ移る時、食物やパウイは幽門部(胃から十二指腸へ移る部分)から勢いよく出て来て、いったん十二指腸の奥深くまで進入するが、再び幽門部の近くまで引き戻され、ここを何回か往復する。

ところで、胃の酸性で働きの鈍くなった細菌類は、腸に入ると胆汁で中和され、pHが中性になったので、再び活性を取り戻す。十二指腸より下では、食物もこなれ、消化も一部進んでいるので、細菌にとっても栄養分がふんだんにある。

増殖に適した環境条件が整ったわけだが、細菌にはここで別の問題が出てくる。胆汁に含まれている酵素の一種、リゾチームには殺菌作用があり、また胆汁酸塩にも、菌の増殖を抑える力があるからだ。だから、食物が小腸へ移動しても、すぐに、増殖(菌が増えること)が盛んになるというわけではない。菌の増殖が盛んに起きるのは、回腸から盲腸の間、つまり小腸の下半分である。盲腸に来ると、菌数は最大となり、腸の内容物1グラム当たり1,000億個に達する。これ以上細菌は増えない。これは自分たちの仲間が増え過ぎたこと、栄養分が吸収されてなくなったこと、及び酸素がなくなっていること、等が主な理由である。

食物には空気が溶けているので、胃や小腸の上部では、細菌が増殖するのに必要な酸素はある。腸内細菌は、大部分が好気性菌(生育に酸素を必要とする細菌)だから、この酸素と、たっぷりある栄養分を吸収して大いに増殖する。しかし小腸の中ごろより下になると、酸素は食い尽くされて、いわば酸欠の状態になる。栄養分も、人間が腸から吸収するので少なくなってくる。胃ではプラス150であるのに、次第に下がり、盲腸になるとマイナス200と非常に低くなる。酸素がなくなっているからである。酸素は腸粘膜から、少しは供給されるが、細菌の増殖に必要な量は、到底賄いきれない。だから細菌は酸欠のため一種の窒息状態になる。以前はこれらの細菌は死滅しているものと思われていた。しかしその後培養技術が進んで研究の結果、これらの細菌は完全に死んでいるのではなく、一種の冬眠状態になっていることが解って来た。いずれにしても大量な細菌は、便の中でも、かなりの部分を占め、便の重さの、何と約三分の一は、腸内細菌が占めている。

腸内は、このように酸欠であるから、腸内で起こる化学反応や酵素反応も、嫌気的反応(酸素のない状態で起こる反応)となる。腸内でできるガス(おなら)は、だから嫌気的な反応の生成物だ。例えば硫黄の場合、これが嫌気条件では、あの臭い硫化水素系の臭いになる。

食事の時、誤って、ほっぺたの裏や、舌を噛んでしまった経験があるはずだが、血が出たりして痛いが、翌朝、そこを舌で触ってみると、案外早く、治っていることに気づいたことと思う。ロや胃の粘膜は1日~2日で傷を修復、腸粘膜では3日~4日で修復される。

これは粘膜(ロの中や胃の中の表面のこと・抗胃液性粘膜)細胞は、その奥の方から次第に表面に出て来て、表面の粘膜細胞は、常に新しいのと取って替わっているからだ。

こうしたわけで、ロ、胃及び腸の粘膜の表面細胞はつぎつぎに下から出て来る新しい細胞に押し出されて来る。従って消化管には、それらの脱落したものが入って来る。体の外(皮膚)なら、脱落した細胞は垢となって取れていく。しかし、体内に在る消化管では、その垢(脱落細胞)は、便と一緒に混ぜられる。便の三分の一が、これによって占められている。便の残りの三分の一が、食物のカスである。食物のカスの量が案外少ないようだが、脱落細胞にしても、腸内細菌にしても、元をただせば食物で、これが形を変えたものに過ぎない。便をよく見れば、健康状態が解る。便は食物のカスだけではなく、腸内細菌は、その人の免疫獲得に重要な役割を果たしているし、消化管は、皮膚と同様に古くなると「垢」となって脱落する。消化管の表面にある粘膜細胞の寿命は、胃で1~2日、腸で3~4日といわ・れている。粘膜の奥から表面に向かって、次々と新しい細胞が移動してくるためです。十二指腸潰瘍が案外と早く治るのも、こういった理由による。