怖いのはO157だけではない。

食中毒の三大原因は、

  1. 細菌による食べ物の汚染
  2. ふぐや毒きのこなどの自然毒
  3. ヒ素などの薬物

とされていますが、我が国で起こっている年間4万件もの食中毒のうち99%以上は細菌に起因するものです。

なかでも食中毒原因菌として検出される頻度の高いのがサルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクターで、これらはいずれも腸炎を引き起こすので赤痢やコレラなどの法定伝染病と本質的な違いはなく、医学的には腸管感染症または感染性腸炎と呼んで同じ扱いにしています。サルモネラの仲間には腸チフスやパラチフスを引き起こすものがありますが、そうでないサルモネラ腸炎でも発熱、嘔吐、血便など、症状のどれをとっても赤痢よりも重く、回復にも時間がかかります。感染源は、肉、卵、乳製品などが主なものです。

腸炎ビブリオはもともと海に棲息する細菌で、主に生で食べた魚介類から感染します。発生時期は従来、夏から秋(6月~11月)とされていましたが、東南アジアで魚介類を食べて食中毒を起こした人からこの菌が分離されるケースが相次ぎ、冬でも診られるようになりました。腸炎ビブリオの産出する毒素は心臓の拍動を止める心臓毒素を持っている点で特に注意が必要です。カンピロバクター腸炎ば激しい下痢、腹痛、発熱などを伴い微量の菌の感染でも発症します。家畜や鶏の腸管に多く棲みつき、ことに鶏肉の汚染頻度が高くなっています。

法定伝染病に指定されたO157も感染力の強い食中毒菌です。サルモネラ腸炎の発症にはサルモネラ約100万個がロから入ることが必要なのに対して、O157はわずかに約100個で発症します。胃酸にも強く、ロから入った菌の約10%が生き延びて腸に達し、1日で100万倍に増殖すると言われています。O157の産生する毒素はベロ毒素と呼ばれ、この毒素が腸管粘膜を壊して出血させ、同時に血管から侵入して全身を巡り、腎臓を傷つけ、HUS (溶血性尿毒症症候群)と呼ばれる重篤な症状を引き起こします。感染源として、海外では生焼けのハンバーガー、ヨーグルトなどが報告されています。

O157のみならず他の食中毒菌もそうですが、素人判断で市販の下網止めの薬を飲みますと、原因菌や毒素を腸の中に残すことになり、症状をかえって重くする結果になりかねません。食中毒が疑われる時は、できるだけ早く病院で診察を受けることです。

食中毒の診断で留意しなければならないのは、海外旅行中に下痢をして帰国した場合などサルモネラ+腸炎ビブリオのように複数の病原菌に混合感染しているケースがまれでないことです。このため患者の便を採取し、広範囲の病原菌が増殖しやすい人口培地で培養する培養検査が広く行われています。O157の診断にはベロ毒素産生検査を行います。

とにかく海外旅行で生ものを食べ、下痢をしたら必ず調べたいのは、輸入感染症の検査と寄生虫卵の検査です。法定伝染病のうち、食べ物や水から経口感染するものに、赤痢菌、コレラ菌、サルモネラ菌(チフス菌とパラチフス菌)、腸管出血性大腸菌(O157)があります。こうした細菌性伝染病は一刻も早く糞便検査を受け病原菌を突き止めること。